2010年04月26日
近ごろはいつも矢野顕子の『音楽堂』
身体の調子や仕事の好不調などのさまざまな波と同じく、自分の場合でいうと音楽への接しかたにもある期間ごとに波があり。とにかく新しい曲、流行ものを手当たり次第数追いかけて聴く時期があったり、ひとつのジャンルが気になると数珠つなぎ・・例えばスカパラが良くなってくるとレピッシュやフィッシュボーンやスペシャルズあたりまで遡ってジミー・クリフまで行って落ち着く、みたいなときも。グレン・グールドが気になっていた時期は、日頃あまり聴くことがないバッハ曲が、つられて気になったり。テレビで目にした沢田研二がかっこよく、しばらくはジュリー一色だったり、井上陽水もNHKの番組に連日かじりついた。そうしてまた冷めて少し距離を置いて、でもまた時間がたつと「あの感覚を」と反芻する。そういうことをよく繰り返す。そうかと思えば、なにも聴きたくない、めんどくさく思う日もある。
どういう心の状態が音楽の好みや方向性に影響を与えるのか?考えてみてもはっきりしたことは理解できないが、少なくとも熱くなれる対象がある時期というのは、生活に充実感や幸福感を少なからず感じているのは確かで。それは生活が充実していたり余裕があるから、音楽という文化的活動へもエネルギーが向くという図式も成り立ちそうであるし、音楽を聴いたり楽器を弾いたりすることが楽しいと感じる精神状態が、イコール幸福モードな生活の十分条件なのかもしれない。へこんだ時にも聴く音楽は決して幸福な状態ではないだろうが、音楽によって沈んだ気持ちを少しでも持ち上げることが出来ているなら、ベクトルは幸福方向に働いているはず。そんなことを思いめぐらしながら、では「不幸な音楽」なんてものはあるのだろうか?あるとしたらそれはどんな曲だろう?と考るも、なかなかイメージができなかった。そういう意味では、自分は今は幸せなのかもしれない。
矢野顕子のアルバム『音楽堂』が発売されて久しいが、いまだにヘビーローテーション真っ直中。
今日は何を聴こうかなぁ?と見渡し、結局選んでしまい最後まで繰り返す日々も既に長い。
今回のアルバムもスーパーフォークソングからずっと続くカーバーソングのピアノ弾き語り。特に病床から復活された名匠エンジニア・吉野金次氏との黄金タッグはそれはもう最高だ。タイトルの由来ともなっている神奈川県立音楽堂での録音は、心なしか今までより広がりというか反響の感じが深いように感じる。スーパーフォークソングのドキュメンタリーで映された緊張感溢れる制作現場の印象がいまだに残っていて、そのため1曲1曲生み出されるまでの過程を空想しながら聴くことがまた楽しく。曲は『グッドモーニング』『へびの泣く夜』ではじまる2曲が、なんだかまるで昔から聴き慣れ親しんだ録音のように錯覚するほど頭の中に入り込んでくる。個人的には4曲目までのうち2曲が「くるり」の曲だいうのもまた気持ちよく聴ける要因のひとつとなっているのかもしれない。ただ『春風』などはいつもながら元曲のイメージよりも強いくらい自分の曲になってしまっていて笑う。今回の選曲の中の1曲は、MySpace上で募った『矢野さんこれ歌って!』キャンペーンによって寄せられたファンのリクエストで『さあ冒険だ』だという曲。採用された人の名前がアルバムにクレジットされるということもあって、自分もGrapefruitsMoonをリクエストしてみたけどあえなく落選。リクエストした「HIROKO」さんという名前のクレジットを確認して羨望のため息をついた。この『さあ冒険だ』は、「ポンキッキーズ」の主題歌であり作詞:森高千里with S.Itoi(糸井重里)、作曲:カールスモーキー石井、唄:和田アキ子という凄い取り合わせ。そんな曲に矢野さんがコラボすることだけでもワクワクしてくる。
そんなカバー曲たちの中にあって、唯一矢野さん自身が作詞作曲の曲である『きよしちゃん』
きよしちゃん、いい曲だね きよしちゃん
きよしちゃん、いい歌だね きよしちゃん
この手をはなさない はなしてはいけない
ことばはいらない
Everything is gonna be alright
We'll do everything to end this fight
この曲の作曲時期はいつだったのだろう?
「どうしたんだい、ヘイヘイ、ベイベー・・・ヘイヘイ、ベイベー」
歌詞カードにも載ってないつぶやくように静かにフェイドアウトしていくアッコちゃんのこの歌声は、
でも、それは最後まで前を向いて、自ら(そして僕ら)を励ます声のようにも感じ聞こえた。